こんな夜は世界中が雨だろう
彼女が生まれ育った港町じゃあ、数日来降り続いていた雪も熄み、
雲間から青空ものぞいていたそうだよ。
僕はといえば、生きててもしょうがないとクダまく酔っぱらいを
なだめすかしていたんだっけ、何も知らずに。
そうさ人生甘くはないさ。
そうさ人生永くはないさ。
愚者の船
どちらかというと本家よりヒエロニムス・ボッシュ(ボスと書こうとしたら、スペルが自動車機器メーカのボッシュと同じなんで。そういえばヒューゴ・ボス VS サントリー・ボスの商標権を巡る争いはどうなったんだっけ?)エーと、そのボッシュの絵の方がメジャーだし、聖書の一節にでもあるのかなと思ってた。
そもそも始めて聞いたのがグレートフル・デッドの同名の曲。
そのイメージがあったから、風刺とか糾弾とかとは正反対の極に位置するどこかしら明るい悲壮感みたようなものを感じてたんだけど。
それにしてもジェリー・ガルシア、早く逝き過ぎだよ。あの手の人は27歳で死ななきゃ長生きするはずなんだけど、その伝説は1980年12月8日に消滅しちゃってたか。
ヒエロニムス・ボッシュつながりでもう一つ。彼の代表作である「悦楽の園」をまんまCDのジャケットにしたバンドがあった。
DEAD CAN DANCE 死者の舞、ゾンビの盆踊り、思わせぶりな名前と出身がオーストラリアというギャップ。オージーとくればつい「カルフォルニアの青いバカ」を超える能天気を思い浮かべて、珍しくジャケ買いしちゃったけど、中はまっとうないわゆる Ambient Music。
Racistのつもりは全くないんだけどどうも偏見が過ぎますな私は。でもバンド名はデカダンスのもじりだと思うよ。なんせオージー英語だから。
懲りない馬鹿はこれにて退場。
源内より顎十、タヌタヌよりだいこん
ミーハーな内容は久生十蘭の作品に登場するキャラクターで誰が好きかという話。
アームチェア・ディテクティブ的な平賀源内より顎十郎捕物帳の阿古十郎、ノンシャラン道中記のタヌ嬢の高慢さも捨てがたいけど、やっぱり「だいこん」(ちゃんとした名前はあったんだっけ)。
でもこれみんな久生十蘭名じゃなくて別のペンネ-ムで書かれた作品ばかりだ。
本家ジュラニアンの久生が登場する「虚無への供物」も塔晶夫名だし、まぁいいか。
幽霊船あるいはFlying Dutchman
繋留のくびきを放たれた彷徨えるオランダ人。でもなんでFlyingなんだ。空を飛ぶのはスコットランド人のジャッキー・スチュワートに決まってる。と種村季弘まねっこしてアナクロニズム(時間錯誤)ごっこしようとしたけど、作文力がないから文章がふらついちゃってる。
でも、偉大なるレーサーはこの称号をどう受け取ったんだろう。不吉さを感じたらF1なんかやってらんないか。
吸血忌あるいは漫遊忌
よく並べられる(銀座旭屋書店の書架は今はどうなっているん
だろう)澁澤龍彦とか中井英夫に較べて、
生への執着、サヴァイバー力に長けてると思ってたのに。
あっという間に癌で死んじゃった。
戦後の池袋に始まる悪食、悪呑で悪性細胞を胃袋にこっそり寄生さ
せていたのか(さて、彼は泥鰌地獄を食べたんだっけ、
澁澤さん家の庭に顔を出したキノコはやはり中井のいうように
有毒だったのか)、
それとも、温泉好きが高じて、ラドンだのポロニウムだのを
飲泉し過ぎたあげくの体内被曝?
数日前、TVでクエンティン・タランティーノがインタビューに
答えて
「昔はオペラハウスみたいな場所が朽ち果てた映画館で見るような
映画、そう日活ロマンポルノみたいな・・・」って喋っていた。
そして、その観客は、スプリングがはみ出した椅子に座って
イヒヒと笑ってる、呆けているのか呆けたふりをしているのか、
近在じゃ誰もが知ってる禿頭のスケベジジイ=晩年の種村季弘
であるはずだったのに。
奇しくも、8月29日は大学の同級で漢字時代の日活を支えた
藤田敏八の忌日でもあるらしい。
スタイリストなんだから、もう。
落魄した身を世に晒し、徘徊するんじゃなかったんですかい、
タネムラさん。
いまじゃ、あなたの薫陶を受けて、錬金術はハガレン、
マニエリズムは奈良美智、虚像の創造はセカンド・ライフ、
ヴァンパイアは掃いて捨てるほど溢れかえってますぜ。
レクイエム#2
前回が訃報の話だったから、今回もまた。
20年前の8月5日、澁澤龍彦が死んだ。喉頭癌に冒された気分を「珠を呑んだ」と表現してたけど、どんな珠だったのか。
「高丘親王航海記」にも同じようなシーンが展開されてたけど、呑んだのは登場人物の薬子だったか御子だったか、いずれにせよ真珠のような柔らかで滑らかな珠だったような感が記憶の底にある。
彼が呑んだのは、もちろんもっと無機的で固くてちょっと喉につかえるような球体だったに違いない。
だって彼が好んだものがそんなものだったから。だから龍は掴み持った珠をつい口の中に含み、呑み込んじゃったんだろう、赤ん坊がするように。
そうか、もう20年になるか。あの日以来、僕は髪の毛を切っていません。別に理由はないし、毛先が痛めば美容院に行ってちょっとつまんでもらったりしてるけど。
今じゃ肩甲骨の下辺りからもうそれ以上は伸びません。きっと毛根が老いて、そのくらいになると髪の重さに耐えきれず、抜け落ちていくからなとも考えたりして。
生きている人間には20年という歳月はあまりに長く、僕はただ老いていく。
レクイエム
岸田今日子の訃報記事ではじめて知ったんだけど、岸田森といとこ同士だったんだ。TVっ子としては、この二人が出てくれば、「兄貴ぇい~」の水谷豊とコンビーフ丸かじりの萩原健一。
あのオープニングシーンにあこがれて、一人暮らしをはじめたときに真似しましたね。おまけにサラミ1本とプロセスチーズ半ポンドもつけて。
情けなや、今じゃ思い起こしただけで胃もたれがしてきた。
願わくばChristmasの清く白からんことを
じんごべー、じんごべー。
なんか「ドグラ・マグラ」の書き出しみたい。昨日は冬至でお日様がお亡くなりになられた日。そして死と再生。今日から日一日と太陽は力を増してゆく。私の熱は治まったけど、街が赤と緑と金色をぶちまけたみたく浮かれている。
赤、白、黄、青、黒、「虚無への供物」で白にちなんだ登場人物は誰だったっけ。それから、あか、しろ、きいろ。???、コーヒー、ゆず、抹茶。名古屋人ならピンとくるでしょうが、また思い出せそうで出てこない小さな固まりが頭の中をうろつきはじめたぞ。また、発熱しそうだ。
じんごべー、じんごーべー。
風邪の熱にうかれて
フィーバー。都会の病院にて見たる悪夢。雨の日は、ソファで散歩。外はみぞれまじりの季節風。サイバースペースは12月の声を聞いたとたんポインセチアカラーに金の鈴。私は朝から布団に潜り込み、顔と上腕だけを出した布団亀。
久しく生きとらん
小栗虫太郎、夢野久作、久生十蘭。澁澤龍彦、中井英夫、種村季弘。以上。
稲垣足穂は巨躯を空に浮かせゆらゆら揺れている。